【華の夢】第1話
湿った肌を撫でる生温い風。
ここは一体何処だろう……
暗くて、酷く寒い……
そして、
とても眠い……
重い瞼を持ち上げるも、視線は霞む。
その先に、薄明かりが見えた。
近づいて来る明かりと、“人の声”が未覚醒のその耳に響いて来る。
「ああ!ついにやった!私達はやり遂げたのだ!!やっと【君】の作成に【成功】した!」
「やりましたね!先生!これで、これでやっと芳ノ国の皆が救われる…!」
「ああ、そうだ!これで、【厄】に怯えずに済む!我々の悲願が、ここに叶ったのだ!!」
わぁわぁ!と、複数の歓喜する声が響く。
【君】?
【成功】?
(ああ……。まただ……。)
(また今日も、同じ“夢”だ……。)
(ハナが作られた、あの日の……。)
“夢”だと分かったその瞬間、薄暗い空間が一変し、どこまでも続く白い空間へと変わった。
コツコツを靴音を鳴らして近づく人影。
「やぁ、目が覚めたようだね?改めて…。“初めまして”」
「さぁ、選ばれた【君】達よ。芳ノ国のためにあれーー。」
とても優しい声だ。
華はそう感じた。
徐々に鮮明になるその視界に映ったのは、様々な傷でボロボロになった大きな手と、とても優しい表情をした、男の顔だった。
***
第1話『華の夢』
「さぁ、選ばれた【君】達よ。芳ノ国のためにあれ。」
夢の中の男の声が脳に響く。
華はゆっくりと目を開けた。
開けた視界に映るのは、天井の白さと、窓から零れる春の朝の、柔らかい光。
窓の方に顔を向けると、枕の上を若葉の様な鮮やかな緑の髪が流れた。
その瞳は、蜂蜜のように、深い黄金の色をしていた。
「……最近、同じ夢ばかり見るなぁ……。」
さっきまで見ていた“夢”を思い出す。
その瞬間、
ゾクッ…
と、体に寒気が走った。
ぎゅっと、自ら体を抱き、悪寒を払い除けようとさすった。
「できるなら、ハナ、ずっとこのままが良いのに……。」
それでもやるべき“使命”があることを、華は忘れてはいなかった。
「そうもいかないよなぁ……。」
深く息を胸いっぱいに吸い込み、ふぅ。と、吐き出した。
「……ハナ、どうして生まれてきたんだろう……。」
コンコン。
突然、寝室のドアが叩かれた。
「はーい?」
華はドアに向かって声をかける。
「華さん。起きてますか?」
「結貴くん!おはようー。今起きた!」
「ちょうど良かった。これから仕事なので、準備お願いします。」
ドアの向こうには、承和の陣の副陣首、結貴がいた。
亜麻色の髪で、頭の上部を簪でまとめている。
その瞳は緑色をしており、とても優しい表情をした、物腰の柔らかな青年である。
これから仕事の為に、華を起こしに来ていた。
「あっ!わかったー!」
華は大きく返事をし、勢い良く体を起こした。
両手いっぱい天井に向けて伸ばし、そして、大きな欠伸を1回。
(考えてても仕方ないし、今日も1日頑張ろう!)
そして、ベッドから跳ねるように飛び出して身支度を進めたのだった。